2015年度設計系授業参考作品

2015年度に行われた1年生から4年生までの設計系授業の参考作品を課題別に紹介します

 

*1年次設計演習授業

建築デザイン1・同演習(春・水3−4・1セメスター)

◎小沢朝江・加藤仁美・十亀昭人・伊藤喜彦・秋吉正雄・番場俊宏・田島芳竹・平本和也・吉田美樹・藤田大海

建築デザイン2・同演習(秋・水3−4・2セメスター)

◎渡邉研司・加藤仁美・十亀昭人・伊藤喜彦・秋吉正雄・野口直人・富永哲史・番場俊宏・彦根明・平本和也

*2年次設計演習授業

建築デザイン3・同演習(春・木3−4・3セメスター)

◎杉本洋文・山崎俊裕・小沢朝江・井上玄・岡田公彦・白子秀隆・篠崎弘之・富永哲史・野口直人・彦根明

Tea-ceremony room -茶室-

 日本の伝統的な建築の一つに「茶室」がある。一番小さな交流施設とも言われている。茶道の世界は奥が深く、理解することは難しいが、初めて建築設計を学ぶ学生にとっては、空間スケール、空間構成、各部寸法を体験するには良い建築である。そこで、第1課題では、現代の小さな交流の場としての「茶室」を課題とする。
 2020年は、日本でオリンピック・パラリンピックが開催される。この機会に日本文化を発信するために、国を挙げて「おもてなし」プロジェクトを推進している。そして、林野庁長官は、木の空間で、緑茶をもてなすことを提唱しているなど日本の文化を世界に発信する絶好の機会でもある。現代の「茶室」を設計するのにあたり、計画場所は東海大学湘南校舎の敷地内のどこでも良い。そして建築の規模は10~12㎥に収まる立体とする。建築に使う材料や構造は自由とする。そして提案する建築は、常時設置、ポータブルな組み立て式、セルフビルドできるなど自由に発想して提案してください。
 この課題に取り組む前に、日本を代表する茶室の一つの裏千家茶室「今日庵」を紹介するので、伝統的な茶室建築が持つ空間や詳細を把握してください。日本には、「起こし絵」というものがある。これは図面と模型の間とも言われている。空間構成を把握する上では模型と異なり、折り畳んで運ぶことができる。

■裏千家茶室今日庵の概要
 宗旦が不審菴を江岑宗左に譲り隠居所として建てた茶室です。席開きの当日、時刻に遅れた清巌和尚が、茶室の腰張りに書きつけて帰った「懈怠比丘不期明日」(懈怠の比丘明日を期せず)の意に感じて、宗旦が今日庵と命名したという逸話で知られており、裏千家の呼び名でもあります。
 一畳台目という最も狭い草庵の茶室で床も壁面を代用してあります。茶室の構成を極限まで切り詰めたところに、侘び茶人宗旦の面目躍如たるものが感じられます。


■敷地条件
 計画敷地は東海大学湘南校舎敷地内として自由に選んで設定する
■設計条件
 規模:建築の規模は10~12㎥程度の立体空間とする
 機能:2人以上でお茶のセレモニーができる空間とする
    伝統的な茶道に沿ったものでなく、交流の形式は自由とする
 構造:使用材料、構造は自由とする

つなぐ家をつくる

 住宅をつくるということは、そこに住む家族を守ることである。阪神淡路大震災、そして東日本大震災を経験した僕たちは、それを強く意識して設計に向き合うことがとても大切である。一方で、周囲に対して閉じられた個としての住宅は、地域コミュニティを遮断してしまう問題もある。災害時だけではなく、日常的に住宅街の地域コミュニティを育んでいくこともとても大切である。その家族を守ること、そして地域に開くこと、このふたつは今住宅をつくることを考えると相反するようでいて、全く矛盾しない。簡単にいうと、閉じることと開くこと。このふたつの考え方が共存してつながる住宅を考えてほしい。
 敷地は、神奈川県横浜市の閑静な住宅街にある。きれいに区画された敷地だが、道路側は中学校のグランド、反対側は公園となっており、開かれた環境をつなぐようにこの敷地がある。この環境に対してもつなぐということを考えてほしい。特に公園側は高低差がありながらもそのまま連続していて、その公園との関係も大切な部分である。
 そして、その家族のつながり方も考えてほしい。家族がつながるということはどういうことなのか、どういう場所があればいいのか、考えてほしい。簡単にいうと、個人の場所と家族の場所。このうたつはどういう関係でつながる住宅がいいのか、考えてほしい。


つなぐ家をつくること
・家と地域をつなぐこと - 街に対しての家のあり方を考える
・グランドと公園をつなぐこと - 敷地の環境を考える
・その家族をつなぐこと - 家のプランを考える


 それぞれ考えるスケールは違うけれども、これらはすべて同じ目的で考えていくことができる。それらをつなぐために、どのような場所が、どのようなかたちが、どのような考え方が必要なのか、僕たちが今住宅をつくるということを意識して考えてほしい。
 
■敷地条件
 神奈川県横浜市の閑静な住宅地
■住人
 40代夫婦、子供2人
■設計条件
 敷地面積:192.14㎡
 建ぺい率:40%
 容積率:80%
 絶対高さ:10m以下
 用途地域:第1種低層住居専用地域

都市型共同生活

 現在の日本では、核家族世帯が多数を占めているとは言え、DINKSや高齢者世帯、都市部ではSOHOなどの職住一致の住まいが増えています。家族という単位から、もっと緩やかなコミュニティーを形成し、様々な居住形態を許容できる住まいへと移行しつつあるのではないでしょうか。
 最近、比較的若い世代では、シェアハウスのような他人同士が集まって何かをシェアして暮らすスタイルが話題になっている一方、一人暮らしのお年寄りや老人夫婦など、独立した生活に不安を抱える人たちが、複数の仲間と一つ屋根の下で助け合って暮らすグループリビングというスタイルの共同生活や、幅広い年齢層が、緩やかに繋がるコレクティブハウスというスタイルなど、様々な集合単位で共に暮らす住まいが我が国でも生まれ始めています。
 このような時代背景の中、本課題では表参道の突き当たりに、世代を超えて時には助け合い、時には活力を与えながら住む新しい共同生活の場を計画します。表参道は、ファッションをはじめ、デザインに対する意識の高い人が住み、世界中からも多くの人が訪れる場所です。そんな特徴的な環境を最大限考慮して地域に相応しい美しい建築を計画し、その美しさ故に生まれる魅力のある都市の住まい方を想像して提案してください。


■敷地条件
 東京都港区南青山
 敷地面積:340㎡
 建ぺい率:60%
 容積率:200%
■設計条件
 要求面積:400㎡程度
 最高高さ:12m以下
 構造及び階数は自由
■住人
 住人は5~10人
 70歳以上を1人以上含む
 同じ趣味や同じ職業を持つ者同士など、お互いが共に暮らす事の意味を探し、各々自由に設定する
■要求諸室
 住人それぞれの専有スペース
 住人同士が利用する共有スペース
 ※専有、共有スペースの規模、各々が設定した内容に合わせて自由に設定する
 地域の人や街に訪れる人も利用できる交流スペース
 屋外駐輪スペース

建築デザイン4・同演習(秋・木3−4・4セメスター)

◎吉松秀樹・渡邉研司・山崎俊裕・井上玄・河内一泰・白子秀隆・田島芳竹・古見演良・山縣洋・山口紗由

代官山の境界を発見し、引き算することで場を描く           -Find a border and map the future of Daikanyama by urban subtraction-

 デザインという行為は、「整理する」作業から始まる。それは条件を「整える」ことだったり、バラバラな要素を「揃える」ことだったりするが、初期段階ではそれだけでデザインの方向性が決まってしまうこともある。デザインとは、「モノ」を作ることが目的なのではなく、「場」や「経験」や「生活」を描くことが目的であるからだ。
 この課題は、東急電鉄東横線・代官山駅から西恵比寿周辺を対象としてサーベイ(調査)を行い、そこで発見した境界をもとに、問題意識を見つけ、これからの代官山周辺をより魅力的にする、(一時的な)建築的提案を求めるものである。
 2013年3月の東横線渋谷駅~代官山駅間の地下化に伴い、代官山と西恵比寿はこの数年で劇的な変化を遂げつつある。線路によって分断されていたエリアが繋がり、渋谷駅や恵比寿駅へと人が流れるようになってきた。しかし、まだ木造密集地の名残もあり、高低差や今後の計画のためにヴォイド(空白)になっている場所も多い。いわば、都市的な「引き算」と「足し算」がバランスしている特異な街だといえるだろう。
 この代官山をサーベイ(調査)し、「歴史」や「地形」に着目して、見えない都市の「境界」を見つけ、都市を整理(引き算)することでこれからの代官山と西恵比寿地区を良くする、一時的な建築やランドスケープを提案してほしい。


注意:「休むための公園」や「自転車置き場」や「街の清掃」や「大規模な都市改造」を求める課題ではない。サーベイ→分析→問題意識(発見)→提案のプロセスを、自らの体験をもとに発展させることを目的とする課題である。
 
■敷地条件 代官山駅~西恵比寿周辺に各自場所を設定する
■建築条件 建築的・都市的提案であること
■建築規模 延床面積は特に規定しない
■施設内容 ・周辺環境との関わりに配慮した提案であること
      ・新しいアクティビティー(行動)を発生させるために必要な機能を含むこと

Daikanyama librarylike architecture for teenagers        -ティーンエイジャーのための「図書館のようなもの」-

 建築の設計において、public(公共)は欠かせない概念の一つである。社会生活を行う上において、無意識に使用している施設全てにpublic(公 共)は存在している。この課題は、第一課題でサーベイをした代官山で住宅と商業のエッジに位置する敷地を選び、ティーンエイジャーのための 「図書館のようなもの」を考えることで、公共の意味を問うものである。
 現在の本は、文化の根元的メディアとして数百年の歴史を持っている。しかし、この伝統的メディアは、iPhoneやiPadなどの普及に伴い、デジタル メディアに急速に取って代わりつつある。現在の本が全てデジタルメディアに代わると考える専門家は少ないが、その関係性は大きく変化している。デジタルメディアに対してプリントメディアという言葉が使われるようになり、流通システムもアマゾン(amazon.com)やiTuneに代表されるよ うに、急激な変化をとげている。本屋も代官山蔦屋書店(Tサイト)のように、様々な機能・役割が付加されたメディアストアへと変わりつつある。
 公共建築である図書館もまた、これまでの図書管理を中心としたサービスから、新しい公共施設としての使命を考えなくてはならない岐路にあり、 最近では蔦屋書店に運営を任せた公共図書館が論議を呼んでいる。 以上の様な現状をふまえた上で、代官山にティーンエイジャーのための「図書館のようなもの」を提案し、これからの代官山に相応しい、都市生活 と公共施設の関係を記述して欲しい。


(補足) メディアサービスや展示スペース以外に、ワークショップや講演などに使われるスペース(100~150人)やカフェなどを設けること。


■敷地条件
  東京都渋谷区 1030㎡
  第2種中高層住居専用地域
  建ぺい率:60% 容積率:300%
■建築条件
  構造自由 階数自由 地下可能(敷地には一部高低差があるが、無視しても良い)
■建築規模
  延床面積 1500㎡程度
■施設内容
  メディア機能、小ホール機能(100人)、展示情報機能、学習機能、カフェ+提案プログラム

  管理機能100㎡(事務室、従業員控室、倉庫)、客用トイレ
  搬出入・荷さばき室100㎡、機械室100㎡(延べ床面積の7%)

  駐車スペースは設けなくとも良いが、メンテナンス、搬入などのサービス経路を考慮する。
  管理、サービスのスペースを確保し、周辺環境も含めたランドスケープ提案を必ず行うこと。

寸法を操作してつくる                           境界のないイエ・ドアのないイエ

 雨や風、暑さ、寒さから逃れるシェルターが、建築の原点である。気候の変化から身を守り、外敵からも身を守る。その答えとして、「建築」は存在している。壁や屋根によって、外部と内部の領域を分けることで、「建築」は成立しているのだ。つまり、「建築を設計する行為」とは「領域を決定する行為」であると言い換えられるだろう。
 では、その「領域」はどうやって決めるのだろうか?「建築」と「彫刻」の違いは、「室内(インテリア)」の有無であるという考え方がある。外敵や厚さ寒さから守るという意味で、建築にとって「室内」を作り出すことは重要な「目的」のひとつである。しかし、完全に閉じてしまうと、光も風も入らず、外も見えない、陰鬱な空間となってしまう。だから、建築家たちは、窓やドアや階段を用いて、内外や上下の「領域」を様々に連続させようと腐心してきた。だが、境界をコントロールする「ドア」や「窓」がなくても、プランや開口寸法をほんの少しだけ操作することで「領域」を作り出すことができる。内外をつなぐ建具を開放すれば、庭と建築が一体化した、伝統的な日本家屋のような空間を考えることもできるだろう。「階段」もまた、異なる領域を垂直方向につなぐ装置であり、「ドアのない床開口」であると考えられるかもしれない。
 この課題は、通常住宅で使われる寸法を学び、それらの寸法を操作することで「見えない境界」をつくり、さまざまな「領域」が連続した魅力的な「イエ」を作り出すことを目的とするものである。建築にとって「寸法」とは何か?「境界」とは何か?「領域」とは何か?を考えることによって、魅力的な「境界のないイエ」を考えて欲しい。

 

■敷地
 144㎡ (12m角の敷地)
 接道状況や周辺環境は自由に想定して良い
 密集した住宅地でも良いし、自然に囲まれた場所でも良い。ただし、周辺環境を十分に表現すること
■設計条件
 ・魅力的な「境界」と「領域」の関係を持った小住宅であること
 ・階数   2層以上(階段でつながれていること)
・構造形式 自由
 ・床面積  70㎡程度
・必要諸室 2名で使う住空間であること
      住宅として成立する機能を満たしていること(他に依存しない)。
・ランドスケープ 敷地内のアプローチ・ランドスケープなどを必ず提案する。

*3年次設計演習授業

建築設計論1・同演習(春・月3−4・5セメスター)

◎吉松秀樹・佐々木龍郎・手塚由比・古見演良・柳澤潤

【Aスタジオ】まちの駅                                  -これからのショッピングセンター+こども館-

 近年大型ショッピングモール(以後S.M.)は、テナントを効率よく並べて完結させる方法論から、一日ゆったりと家族が過ごせるアミューズメントパークへと向かい、従来の消費する場所というイメージから脱却し、レジャー産業としての新しい場所の価値を確立しつつある。
 本来S.M.は、アメリカで1950年代頃から郊外におけるひとつのコミュニティ形成に寄与しており、コミュニティからレジャー産業に変化する中でその商業的な興行としての在り方も刻々と変化し、現在では公共的な空間とも呼べるような「まちに開かれたS.M.」も登場してきている。また、大型S.M.が進出することで地方の小売業が埋没し、小売業自体が成立しないなどの格差を生んでいることは、日本の社会問題でもある。
 「中心市街地を活性化する」「かつての賑わいを取り戻す」といった議論が日本のどこにでも起こっている現在、これまでのような公共施設を単に起爆剤として投じる効果は、あまり期待できない。ユートピア思考やノスタルジックな郷愁論よりも、今生きている人間の欲望を満たしながら、新たな公共的な場所の生産に寄与するのではないか、という期待の方がS.M.に対して大きいのも事実である。かつでは商業施設としてしか理解されていなかった場所が、いつのまにかもっとも公共性を帯びた空間に変換されうる可能性を秘めていると感じている。
 本課題は、こうしたS.M.の変遷を理解するとともに、今後S.M.が公共的な役割をもつとしたら、どのようなプログラムと重ねることが可能かをリサーチし、なぜその場所にS.M.が必要かを明確にしたうえで、S.M.に新しい公共的なプログラム「こども館(劇場、図書館、市etc)」を自分たちで考案し、デザインするものである。課題の与条件を踏まえて建築単体を考えることも重要であるが、敷地全体がもつポテンシャルや建築の強度などを意識して、新たな社会的プログラムを提案してほしい。


■敷地
 東京都渋谷区神宮前
■敷地条件
 7,317㎡(間口:123m×奥行き:60m)
 第2種住居地域 建ぺい率60% 容積率300% 30m高度地区 準防火地域
■設計条件
 建築面積(水平投影面積):4,390㎡以下(敷地面積×60%)
 延べ面積(室内空間):8,000㎡以上
 構造形式:木造・S造・RC造・SRC造など自由
 階数:地上3階以下
 用途:ショッピングモールをコアにした複合施設(商業・教育・文化)
    ショッピングモール 計 5,000㎡以上
     ・テナント(ファッション、飲食、雑貨、地域の食材、セレクトショップなど)
     ・200㎡×5店舗・100㎡×20店舗・50㎡×10店舗 計2,500㎡程度
     ・カフェ100㎡
     ・事務所100㎡
    こども館 計3,000㎡
     ・ホール(小劇場)500㎡ ・親子の遊び場300㎡
     ・創作室 その他ワークショップ教室 50~60㎡×20室程度
     ・事務室50㎡
    共用部/1,000㎡ エントランス・通路・階段等の動線スペース、トイレ、休憩スペース等
    機械室/全体の7%程度確保する
    駐車場/敷地外に確保するものとするが、店舗用搬出入動線と駐車荷下ろしスペースを設ける

【Bスタジオ】マチでホンを読む                             -公園のような都市のリビング-

 公共も商業も、時代に即してその場所性を変える必要がある。メディア、ブックストアー・カフェ・レストラン・イベントスペースをベースとして、さらにプラスαな機能を提案し、それぞれにアプローチする方法をデザインしてほしい。
 公共ということ
 建物の分類に、「個人的なもの(プライベート)」と「それ以外(パブリック)」という分け方がある。プライベートは家や別荘などの住空間、パブリック(公共)は役所・警察・駅・図書館・地区センターなど。オフィスや商業施設などの建物も、プライベートな面があるにせよパブリックな存在として認識される。しかし、ファミレスやマックやスタバは公共な場所とは思わないだろう。しかし、学生はファミレスやマックで勉強しているし、大人もスタバで読書したりしている。コンビニには、郵便・銀行・公文書サービス・情報送信などの機能が備わっている。今、それらは有効な公共の施設なのだ。人々は、いわゆる今までの公共建築(役所・図書館・地区センターなど)を「利用」しなくなっているし、「必要」を感じなくなっている。何故なのだろうか?時代と共にものごとは変わっていく。公共のカタチも「変化」を求められている。人が集まる場所(公共空間)のアクティビティは何か(?)を模索し、人が来たくなるような「公共のサービス」を見直すことから始めなければいけない。
 メディアの今
 現在の本は、文化の根元的メディアとして数百年の歴史を持っている。しかし、この伝統的メディアは、iPhoneやiPadなどの普及に伴い、デジタルメディアに急速に取って代わりつつある。現在の本が全てデジタルメディアに代わると考える専門家は少ないが、その関係性は大きく変化していくだろう。最近では、デジタルメディアに対して、プリントメディアという言葉が使われるようになり、その流通システムも、アマゾン(amazon.com)やiTuneに代表されるように、急激な変化をとげている。本屋も代官山蔦屋書店(Tサイト)のように、様々な機能・役割が付加されたメディアストアへと変わりつつある。公共建築である図書館もまた、これまでの図書管理を中心としたサービスから、新しい公共施設としての使命を考えなくてはならない岐路にあり、新しい枠組みの公共施設が既に各地に出現し始めている。インターネットや携帯電話の普及により、私たちの生活スタイルはここ20年ほどで大きく様変わりしてきた。その結果、これまでの機能別の建築計画学は大きく揺れ動いている。
 この課題は、これからの公共施設のあり方を問う課題である。既存の建築形式にとらわれることなく、これからの日本にとって必要な、公共施設像を提案してほしい。


■敷地
 東京都渋谷区猿楽町
■敷地面積
 4,470㎡(間口:85.9m×奥行き:50m)
 第2種中高層地域 建ぺい率60%(角地緩和70%) 容積率300%
 準防火地域
■設計条件
 建築面積(水平投影面積):3,129㎡以下(敷地面積×70%)
 延べ面積(屋内空間):5,500㎡
 構造形式:木造・S造・RC造・SRC造など自由
 階数:地下1階 地上3階以下
 用途:メディアテーク機能
     メディア・ブックストアー1,500㎡、ストックヤード200㎡、イベントスペース500㎡
     カフェ500㎡、レストラン(2ヶ所)計1,000㎡、トイレ(3ヶ所)300㎡
    プラスαな機能500~1500㎡(アート、コンサートや、自転車関連の施設等)
    管理機能(事務、従業員控え、倉庫、トイレ)・搬出入・荷捌き・機械室(述床面積の8%)
    駐車スペースは設けなくて良いが、メンテナンス、搬入などのサービス経路を考慮する。
    管理、サービスのスペースを確保し、周辺環境も含めた提案を必ず行うこと。


【Cスタジオ】 ジャパン・ミュージアム

 アジアの経済成長や円安を背景に、日本を訪れる外国人の数は増え続けている。1月の訪日外国人数は今や150万人にも達し、その数はもはや2年前の2倍に達している。2020年のオリンピック開催に向けて、外国人観光客は増加の一途を辿るであろう。一方、その観光客の受け皿となるべき施設は十分ではない。そこで、日本を代表する街の一つである銀座に、日本の代表となり得る観光センターを計画してほしい。
 観光センターとして、ツーリストインフォメーションなどの機能も必要ではあるが、「クールジャパン」という言葉に代表されるような、日本のアニメやマンガを始め、アート、映画、ファッション、文学、建築、デザイン、音楽、演劇、ゲーム、和食など日本文化を紹介する機能も盛り込み、日本の分化の奥深さを感じられる施設となることを願っている。
 計画に先立って、敷地および周辺の状況、都市的・文化的コンテクストを読み込み、銀座が持つ都市的アクティビティを理解してほしい。都心ゆえに敷地はプログラムの内容に比べ小さく、計画建物は垂直方向に伸びざるを得ない。必要な諸機能を垂直に、時に水平に重ねて統合し、都市的なコンテクストを踏まえた日本文化の拠点にふさわしい施設・建築空間を創造することを期待している。


 計画にあたり、以下の3つの連続性を意識してほしい。
1・周辺環境との連続性。ランドスケープと建築の両方をデザインする。都市のコンテクスト(文脈)を読み込み、銀座の都市アクティビティを理解する。
2・配置された諸機能の連続性。平面的・断面的な動線計画を熟慮し、施設全体が魅力的な施設とする。
3・家具デザインから構造デザインに至る思考の連続性。プログラムから建築のカタチを作りあげていくことを目標に、スケッチや図面を描いて案を練り上げる。


■敷地
 東京都中央区銀座
■敷地面積
 707㎡:商業地域・防火地域
 容積率:800%(容積緩和+300%)・建ぺい率:80%(角地緩和90%)
■設計条件
 延べ面積:6,000㎡前後
 構造形式:自由(S造、RC造、SRC造など)
 高さ  :地上40m以上とする(最高高さ50m)
      (地下1~2層、地上8~10層程度)
 必要諸室:下記を基準面積として提案を行うこと。(提案に応じて変更してよい)
  a. 観光情報コーナー :300㎡
  b. 案内・外貨両替  :300㎡   観光案内カウンター・両替カウンター
  c. 常設・企画展示  :1,000㎡  展示・収蔵庫
  d. カフェ      :300㎡   ミュージアムカフェ
  e. ホール     :500㎡   200人、講演・作品上映・映画など・AV機能を有する
  f. ショップ    :500㎡   ミュージアムショップ・ブックショップ・倉庫
  g. ワークショップ :500㎡   100㎡×2室、50㎡×2室、控室25㎡×2
  h. 管理      :500㎡   事務、館長室、会議室
  i. 機械室     :500㎡   空調(地下または屋上)+電気(100㎡)
  j. 共用      :ロビー・ホワイエ・通路・休憩ラウンジ・階段・便所・屋外イベントスペース等
  k. その他     :避難階段として区画された2つ以上の直通階段・客用EV(必要台数)
            +搬出入EV
                              :駐車場は敷地外とするが、搬出入動線や駐車スペースは確保

【Dスタジオ】 オモテサンドウ・スクール・オブ・デザイン

 世界の主要都市と称される東京も、教育機関の充実、選択肢という点では、世界に見劣りしている。
 ニューヨークでは、コロンビア大学(アイビーリーグ)、坂茂の出身校クーパーユニオン(科学技術の発展)、実務教育に強いプラッツインスティテュート(美術学校)など建築教育の選択肢も豊富であり、ロンドンでは掃除機で知られるジェームス・ダイソンが、インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)工学部での新しいプログラムとして、「ダイソン・スクール・オブ・デザイン・エンジニアリング」を今年10月より定員40名でスタートさせようとしている。また、イタリアではベネトンがFABRICAというコミュニケーション・リサーチセンターに、25歳以下の若い世代を奨学生として招聘している。
 東京でも、ミッドタウンでデザインハブ(http://designhub.jp/about/)という企業と教育機関などの連携組織がスタートしているが、存在感は薄い。今回の課題では、青山通りに面した敷地に、建築、ファッション、映像などを多角的に学ぶ教育交流機関の在り方を構想してほしい。
 計画に先立って、敷地および周辺の状況、都市的・文化的コンテクストを読み込み、青山が持つ都市的アクティビティを理解してほしい。都心ゆえに敷地はプログラムの内容に比べ小さく、計画建物は垂直方向に伸びざるを得ない。必要な諸機能を垂直に、時に水平に重ねて統合し、都市的なコンテクストを踏まえた日本文化の拠点にふさわしい施設・建築空間を創造することを期待している。
 計画にあたり、以下の3つの連続性を意識してほしい。
1・周辺環境との連続性。ランドスケープと建築の両方をデザインする。都市のコンテクスト(文脈)を読み込み、青山の都市アクティビティを理解する。
2・配置された諸機能の連続性。平面的・断面的な動線計画を熟慮し、施設全体が魅力的な施設とする。
3・家具デザインから構造デザインに至る思考の連続性。プログラムから建築のカタチを作りあげていくことを目標に、スケッチや図面を描いて案を練り上げる。


■敷地
 東京都港区北青山
■敷地面積
 1,040㎡:商業地域・防火地域
 容積率:700%・建ぺい率:80%(角地緩和90%)
■設計条件
 延べ面積:6,000㎡前後
      公開空地を200㎡以上設けること
 構造形式:自由(S造、RC造、SRC造など)
 高さ  :地上40m以上とする
      (地下1~2層、地上8~10層程度)
 必要諸室:下記を基準面積として提案を行うこと。(提案に応じて変更してよい)
  a. 教室  :1,000㎡ S-パーソナル:2-4人、M-グループ:5-10人、L-クラス:20-30人
  b. 制作  :1,000㎡ インドア、アウトドアスタジオ
        (空間のサイズ、空調等温熱環境、音環境などに留意)
  c. 発表  :1,000㎡ 小ホール(200人程度―空き時間はシネマとして使用)
         インドア、アウトドアギャラリー
         例:シアターイメージフォーラム、ユーロスペース、アップリンク
  d. 情報  :500㎡   ブックサービス(本の印刷製本、販売、図書館機能)
         マテリアルショップ(材料)、カフェ
         例:ナディフ
  e. 研究  :500㎡   研究室、シェアオフィス、ゲストハウス(滞在)
  f. 管理  :500㎡   事務、館長室、会議
  g. 機械室 :500㎡   空調(地下または屋上)+電気(100㎡)
  h. 共用  :ロビー・ホワイエ・通路・休憩ラウンジ・階段・便所
  i. その他 :避難階段として区画された2つ以上の直通階段・客用EV(必要台数)+搬出入EV
       :駐車場は敷地外とするが、搬出入動線や駐車スペースは確保

建築設計論2・同演習(秋・月3−4・6セメスター)

◎杉本洋文・上田至一・長谷川祥久

東海大学建学75周年記念館

 3年生後期の第1課題では、東海大学の学生になじみの深い大学キャンパスに隣接する敷地を題材とする。ここに学生、東海大学関係者、そして地域社会の人々にも広く開放された多数の人々が集まる公共空間を計画する。それは、多数の人が集合できるホール的な空間を持ち、同時に授業時間以外の学生の様々な活動を受け止める場所であり、不特定多数の人々が同時に利用する空間となる。つまり、様々な目的で訪れる人々が個々に自由に活動する空間を想定するが、同時に、多数の人が一つの空間に集合して一つの目的の為に意識を集中させる場所も想定する。公共の空間では、人々は個別にその場所を利用し、時には2~3人で、またそれ以上の人数のグループで利用する。そしてもっと多数の人が集まり、演説を聴き、ダンスや演劇を鑑賞し、その時間、空間の体験を共有することもある。公共空間を人々が利用するときに、様々な人数のスケールで個別に、また集団でその時間と場所を共有する。それらの空間は、そのサイズに合わせて独立させた複数の空間の集合として考えることができるが、その多様なサイズの集合を様々な場所で同時に成立させる広場的な空間を想定することもできる。今回は、人々が集合して様々な活動を行い、共有する為の空間をどのように個別化するか、どのように連続させるかを考え直してほしい。計画する場所は非常になじみのある場所であり、改めていつでも敷地を見直しながら、そこにどんな空間を想定するかを考えることができる。また、どのような空間があったら日常的に使いたいか、その空間を誰かと共有したいか、複数で集まりたいかを自分の事としてリアリティを持って想像し、それを具体的空間として計画することを実践してほしい。施設の持つべき具体的機能は一定の条件を設定するが、それ以外は各自が必要だと思う機能を追加、または規模を増減させてよい事とする。その機能の選択と規模の増減の理由を説明できるようにすること。
 東海大学は大学規模、専門性の多様さにおいて日本有数の大学であり、また、多くの留学生を受け入れ、海外で活躍する卒業生も多く、国際性が高い。また、「先駆けであること」がその建学のスローガンとなっている。そして2017年に建学75周年を迎え、湘南キャンパスはその中心的存在であり、地域との連携もますます重要性が増している。そのような特徴を活かした記念事業として、東海大学関係者を始め、全ての人々が集いやすく、共有意識を高め合うことができ、個々にも快適に活用することのできる新しい公共空間を提案してほしい。


■敷地面積 9,880㎡
■用途地域 第2種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)
■建築概要 
◆構 造  自由
◆規 模  6,000㎡程度
◆階 数  適宜
◆必要諸室 ・ホール機能:最大3,000㎡程度
        講演、演奏、合唱、ダンス、バレエ、演劇、映画等に広く利用できるホール系施設、基本的な舞台サイズ等のスペックを参考にしつつ、各自何らかの特徴を持たせたホールとすること。
        -大ホール(500席程度)
        -小ホール(100席程度)
        -大小ホール用ホワイエ
        -バックヤード(楽屋、倉庫、搬入口、荷解きスペース、楽屋ラウンジ、技術者控室等)
      ・展示・創作機能:1,000㎡
        -展示スペース300㎡(4m程度の有効天井高さ)
        -展示準備室・収納庫、搬入口(ホールと兼ねてもよい)
        -大中小のスタジオ最低各1室
        -ワークショップスペース
        -製作室
      ・交流機能:1,000㎡程度
        -オープンロビー

         (長時間滞在でき、打ち合わせに使える、カフェを併設し飲食可能なもの)
        -レストラン・カフェ
        -各種ショップ、商業施設
        -ライブラリー

         (図書館ではなく、電子メディア、印刷メディアの情報が閲覧、購入、

          検索できるスペース)
        -子ども・親子・高齢者が一定時間を過ごすことのできるスペース
        -ライブイベント、バザー等が開催可能なオープンロビーに連続する広場空間
      ・管理機能
        -楽屋事務室、管理事務室(20人程度の執務スペース)、会議室
・その他
  -各施設に必要なトイレ、倉庫、廊下など
  -機械室10%
  -緑地帯(地盤レベルでなくても良い)
  -子供の遊び場、屋外のたまり場、活動空間
  -搬入車、関係車両用駐車場適宜


 以上以外に、上記課題を実現するために必要な機能を各自考え追加提案してよい。
 また、各機能諸室の規模は適宜増減させてよい。
 ただし、その追加、増減をした理由を明確に説明すること。

交差点をデザインする!                          茅ヶ崎のストリート文化を発信する複合コミュニティ施設

 茅ヶ崎市は、湘南海岸の中心に位置し、温暖な気候と良好な海岸を有していることから、東海道線の南側エリアは、かつて療養所・別荘が多数立地し、保養・レクレーションの街として発展し、その後、別荘地の周りの農地が開発され、低層の良好な住宅地を形成した住環境都市である。しかし、開発は自然発生的に形成されたために、主要幹線道路が少なく、他方向に交差する路地が迷路のように入り乱れる。この都市構造は、外来者にとっては迷ってしまうが、生活者には、通勤、通学、散歩などに使われ、それぞれ自分のルートを使って快適に暮らしている良い点も見られる。街中は、別荘地の屋敷林、生垣を回した宅地、木質の住宅など、高密な住宅地にも関わらず心地よい緑環境を提供している。道路幅が狭いために開発ができず、空家の事例も増え、放置されることによっての住環境の悪化が起きている。
 茅ヶ崎市の街路の中のメインストリートと言えるのは、茅ヶ崎海岸に沿った東西に横切る国道136号線・鉄砲通・南湖通り・桜道の4つの幹線道路と、海に繋がる南北を繋ぐ、サザン通り・高砂通り・雄三通り(旧東海岸通り)・一中通り・ラチエン通りなどの5つの幹線道路で構成されている。それぞれ街の特徴を表す個性的な名前がつけられている。住民にとっては、日常的な暮らしの場であり、そこには個性を競い合う店舗が並び商店街を形成している。駅近くは、空き店舗が少なく、常に、時代を捉えて更新され、駅から遠くなるに連れて空き店舗が目立つようになる。また、茅ヶ崎の街は、外車の保有率が高く、住民自らが自宅のガレージを使っておしゃれなカフェやセレクトショップなどを手作りし、趣味のサーフィンやビーチスポーツを楽しむなど、カリフォルニアのリゾート地を彷彿とさせる茅ヶ崎独自のライフスタイルが展開されている。
 この課題では、街を歩き、茅ヶ崎のストリート文化をグループでリサーチし、その特徴や課題を把握しながら2つのストリートが交差する場所を、プログラムに沿ってデザインすることを設計課題とする。最初に、2~3人のグループでリサーチし、発表する。そして選定した交差点の敷地を計画対象地とする。提案するプログラムは、茅ヶ崎のストリート文化をより強化し、市民のライフスタイルを表現し、地域コミュニティ形成と交流人口の創造に寄与する市民の活動拠点を提案してもらう。

 

■敷  地 約500㎡~1,000㎡
■施設規模 約1,500㎡~2,000㎡
■階  数 自由
■構  造 自由
■法的規制 各グループで調べる
■プログラム ・コミュニティに関する施設(子育て、介護、学童保育など)
       ・交流施設(カフェ、ギャラリーなど)
       ・湘南スタイルの暮らしのできるスタイルの住宅(4戸以上)
       ・ストリート文化を取り込んだ自由提案

        (ポケット広場、自転車ターミナル、店舗、工房、ギャラリーなど自由に提案)
       ・自由提案